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唯信鈔

2009/10/01(木)
唯信鈔文意の第2章 法照禅師の『浄土五会念仏略法事儀讃』巻本中漢讃4句の2番目の句です。
この句については、2箇所に書かれています。その1箇所目です。

【原文】
 「十方世界普流行」といふは、「普」はあまねく、ひろく、きはなしといふ。「流行」は十方微塵世界にあまねくひろまりて、すすめ行ぜしめたまふなり。しかれば大小の聖人・善悪の凡夫、みなともに自力の智慧をもつては大涅槃にいたることなければ、無碍光仏の御かたちは、智慧のひかりにてましますゆゑに、この仏の智願海にすすめ入れたまふなり。一切諸仏の智慧をあつめたまへる御かたちなり。光明は智慧なりとしるべしとなり。
註釈版聖典 700頁

【現代語訳】(浄土真宗聖典 現代語版より)
 「十方世界普流行」というのは、「普」はあまねく、ひろく、果てしないということである。「流行」とは、数限りないすべての世界のすみずみまで広く行きわたり、南無阿弥陀仏の名号を勧め、念仏させてくださるのである。そのようなわけで、大乗・小乗の聖人も、善人・悪人すべての凡夫も、みな自力の智慧では大いなるさとりに至ることがなく、無礙光仏のおすがたは智慧の光でいらっしゃるから、この仏の智慧からおこった本願の海に入ることをお勧めになるのである。無礙光仏はすべての仏がたの智慧を集めたおすがたなのである。その光明は智慧であると心得なさいというのである。

【補足】
唯信鈔文意を読む時は、唯信鈔の該当箇所を読まれた方がいいと思います。
この場合は(註釈版聖典 1340-1341頁)です。
阿弥陀仏の十二光でいえば「無辺光」「無礙光」にあたりましょうか。
善悪の凡夫が等しく救われる教えであることが分かります。
問題は私が「大乗・小乗の聖人、善人・悪人」のいずれであるかということではなく、「自力の智慧では大いなるさとりに至ることがない」ということなのです。
歎異抄で言えば、
弥陀の本願には、老少・善悪のひとをえらばれず、ただ信心を要とすとしるべし。
なのです。
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タグ : 唯信鈔文意 唯信鈔

2009/09/26(土)
前回の記事で、「五逆の罪人、十念によりて往生す」という言葉がありましたが、これは観無量寿経の下品下生段の言葉です。
唯信鈔には、この下品下生段の言葉と第18願文とを引かれて、称名念仏を薦められた章もありますので、この機会にお示しします。
なお、第18願文の意味については、
尊号真像銘文(註釈版聖典 643-644頁)
を読まれるといいでしょう。
尊号真像銘文では、唯信鈔を薦められていますね。

つぎに本願の文にいはく、「乃至十念 若不生者 不取正覚」(大経・上)といへり。いまこの十念といふにつきて、人疑をなしていはく、「『法華』の〈一念随喜〉といふは、ふかく非権非実の理に達するなり。いま十念といへるも、なにのゆゑか十返の名号とこころえん」と。
この疑を釈せば、『観無量寿経』(意)の下品下生の人の相を説くにいはく、「五逆・十悪をつくり、もろもろの不善を具せるもの、臨終のときにいたりて、はじめて善知識のすすめによりて、わづかに十返の名号をとなへて、すなはち浄土に生る」といへり。これさらにしづかに観じ、ふかく念ずるにあらず、ただ口に名号を称するなり。「汝若不能念」(同)といへり、これふかくおもはざるむねをあらはすなり。「応称無量寿仏」(同)と説けり、ただあさく仏号をとなふべしとすすむるなり。「具足十念 称南無無量寿仏(観経では 称南無阿弥陀仏) 称仏名故 於念々中 除八十億劫 生死之罪」(同)といへり。十念といへるは、ただ称名の十返なり。本願の文これになずらへてしりぬべし。 善導和尚はふかくこのむねをさとりて、本願の文をのべたまふに、「若我成仏 十方衆生 称我名号 下至十声 若不生者 不取正覚」(礼讃)といへり。十声といへるは口称の義をあらはさんとなり。
唯信鈔 註釈版聖典 1350-1351頁)
〔意訳〕
次に阿弥陀仏の第18願文に「乃至十念 若不生者 不取正覚」と誓われています。いまこの「十念」ということについて疑いを抱いている人がいます。「天台宗では、完全に法に帰依し、信従し、法と信をよろこぶ身になるというのは、中道実相の教えを究めたことを言います。本願文に十念とあるのは、念仏を十回ほど称えることではないでしょう」と言うのです。
この疑いに対してお答えしましょう。
『観無量寿経』の下品下生段にこの逆悪の人の浄土往生の相が説かれています。
「五逆とか十悪の重罪ばかりか、その他の諸々の悪を重ねた人が、臨終にはじめて善知識のすすめで、わずか10回、念仏を称えて浄土に往生した。」
ここに説かれている念仏は、心を静めて阿弥陀仏とその浄土を念ずる念仏ではありません。
ただ口に名号を称えるのです。
観無量寿経の「汝もし念ずることができなければ」のお言葉は、臨終に苦に逼められて、心を静めて行う念仏などできないことをあらわしています。
だからこそ、ただ無量寿仏のみ名を称すべしと説かれたのです。
観無量寿経には「具足十念 称南無無量寿仏(実際には 称南無阿弥陀仏) 称仏名故 於念々中 除八十億劫 生死之罪」と説かれていますが、この十念も10回の念仏です。
本願の「乃至十念」も同じく10回の念仏と言えるでしょう。
(乃至とありますので、十念の前後を含む、一念~無量念です)
善導大師はこのことを深く知られて、往生礼讃に本願の文を「若我成仏 十方衆生 称我名号 下至十声 若不生者 不取正覚」と示されました。
ここに十声とおっしゃっているのは、口に南無阿弥陀仏と称えることをあらわしておられます。

タグ : 唯信鈔

2009/09/26(土)
宿善のあつきものは今生にも善根を修し悪業をおそる、宿善すくなきものは今生に悪業をこのみ善根をつくらず。
という唯信鈔の聖覚法印の言葉をもって、宿善の厚い人と薄い人がいるという説明をしている人がいます。
しかし、この聖覚法印の言葉はそういうことを言うためのものではありません。

下に、その前後の文と訳を示します。
宿善」という言葉の意味が、前半と後半で微妙に(と言いますか、実は本質的に)違っています。
つまり、前半では単純に「過去世の善根」という意味で語られ、後半では「阿弥陀仏の方からの御縁」の意味になっています。


聖覚法印はすばらしいですね。
そしてまた、この唯信鈔を自ら何回も書かれ、同行に読むことを薦められた親鸞聖人の心を拝察します。

つぎにまた人のいはく、「五逆の罪人、十念によりて往生すといふは、宿善によるなり。われら宿善をそなへたらんことかたし。いかでか往生することを得んや」と。
これまた痴闇にまどへるゆゑに、いたづらにこの疑をなす。そのゆゑは、宿善のあつきものは今生にも善根を修し悪業をおそる、宿善すくなきものは今生に悪業をこのみ善根をつくらず。宿業の善悪は今生のありさまにてあきらかにしりぬべし。しかるに善心なし、はかりしりぬ、宿善すくなしといふことを。われら罪業おもしといふとも五逆をばつくらず、宿善すくなしといへどもふかく本願を信ぜり。逆者の十念すら宿善によるなり、いはんや尽形の称念むしろ宿善によらざらんや。なにのゆゑにか逆者の十念をば宿善とおもひ、われらが一生の称念をば宿善あさしとおもふべきや。小智は菩提のさまたげといへる、まことにこのたぐひか。
(註釈版聖典 1353-1354頁)
〔意訳〕
次にまたある人が言うには「五逆罪を犯したような罪の深いものでも、10回の念仏で浄土に往生するというのは宿善(過去世の善根)によるものだ。私の場合、過去世に善根を積んできたとは思えない。どうして往生することができましょうか」と。
これもまた愚かなはからいによって、いたずらに阿弥陀仏の本願を疑っているのです。それはどうしてかというと、過去世の善根の積み重ねが多かった人は、今生においても善根を修め悪業を造ることを恐れますし、過去世に善根を積み重ねることが少なかった人は、今生においても悪を好み善をしようとしません。その人の過去世に善をしてきたかどうかは、今生のありさまから、明らかに知られるのです。我が身を振り返ると、善い心がありません。宿善が少ないということが思い知らされます。しかし、そんな罪の深い者ですが五逆の重罪は犯していませんし、善根が少ないといっても、阿弥陀仏の本願を信じさせて頂いています。五逆の者の10回の念仏でさえも宿善のおかげです。ましてや一生涯念仏を称えさせて頂けるのは宿善(阿弥陀仏の方からのお手廻し)のおかげであり、有り難いことです。五逆の重罪を犯した者が10回の念仏を称えるのが宿善によるとし、私たちが念仏を称えるのは宿善が浅いと思うのはどういう訳でしょうか。浅薄な分別心が往生成仏の妨げになるというのはこういう考えのことでしょう。

補足
 単純に考えて、「すべての人が一つの善もできない極悪人」ならば、過去世はもちろん今生においても「宿善を厚くする」ことは不可能ですよね。
 聖道の教えと浄土の教えをまぜこぜにすると、混乱して訳が分からなくなります。
 だから、唯信鈔ではまずはじめに聖道と浄土の違い、浄土門の中でも諸行往生と念仏往生の違い、念仏往生の中でも専修と雑修の違いを詳しく説明してあるのだと思います。
 なお、唯信鈔は法然聖人とのかかわりで言うと、聖覚法印が法然聖人没後に異義のはびこる状態を歎いて書かれたものです。
 「法然聖人と唯信鈔」は「親鸞聖人と歎異抄」と同じ位置関係にあるのです。
 歎異抄を理解する時は、唯信鈔と唯信鈔文意を読むことが大切です。

タグ : 唯信鈔 宿善

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